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「柏原さん、『佐川』ってまだ呼んでるの?
今日から困るじゃん 」
向かいから痛いほどの視線を受けつつ訊ねた俺に
今度は彼女が視線を上げて佐川をチラリと見るが、アイツは視線を合わさずにふいと逸らしてしまう。
「――そうなんですけど ね 」
今更どうしたらいいかわからない と顔に貼り付けて曖昧に笑う彼女だったが、
俺は耐えきれず声を出して笑ってしまった。
(――――お前… )
何事かと俺を見る柏原さんに、
その横で俺を見るその表情が……ホントに笑えるくらいコイツだった。
西園寺さん… と声を掛けようとした彼女は、
急に思い出したように顔を上げて俺に一歩近付く。
「 西園寺さんに
今日どうしても会いたいって人がいるんですよ 」
俺を見上げる彼女のその言葉に、佐川は組んでいた腕を下ろし
「――おい 絵里 」
それ以上は言うな と彼女を目で制するが、
彼女も佐川を見返して口を尖らせる。
「彩ちゃん、西園寺さんに会ってみたいって
前から言ってたじゃないですか」
「………あや?」
急に出てきたその名前が分からず訊き返すと
隣からため息混じりにポツリと佐川の声が届いた。
「―――俺の妹 」
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