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前に彼女に会ったのは出先の陸橋で、
―――丁度その頃も今日のように桜の舞う季節だった
驚いて中途半端に動きが止まる俺の瞳に映るのは
きっと今の俺と同じ顔をした夕帆ちゃんだった。
「―――今日の結婚式の貸切さんって……
え……、もしかして……」
「そう、新郎が俺の同期
――――久しぶり
…ここのレストランだったんだね」
驚きの色を浮かべていた彼女の顔はだんだんと眉尻が下がり、
決まりが悪そうに苦笑して
「…はー…
今仕事中なのに…、どうしよう」
消え入りそうな声で呟いた彼女の声は
よく耳を澄まさないと聞こえない。
「―――え?」
小さく首を横に振って俺を見る彼女は
困ったような、迷ったような表情を浮かべて
「自分の中で賭けてたんです
次会ったら
『いうか』『いわないか』を」
「……え?」
なんのことか分からずに訊き返すと、
少しだけ視線を彷徨わせた彼女は
意を決したようにゆっくりと口を開く。
「初めて会った時から、西園寺さんは香澄ちゃんの恋人で
だからそうとしか見ていなかったんですけど 」
薄く笑みを浮かべたまま
伏し目がちに淡々と話す彼女は、一呼吸置いた後視線を上げて俺の目を見つめた。
「けど傍で見ているうちに
香澄ちゃんはいいなぁ……って思う気持ちから、
だんだんと どうしてその瞳には香澄ちゃんしか映らないんだろうって……
なんで香澄ちゃんばっかりなんだろうって
………ハハ 可笑しいですよね」
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