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大きく目を見開いた彼女は、俺と視線が絡むと
おもむろに自分のスーツの内ポケットから名刺を取り出して、俺に差し出した。
受け取った小さなそれに目を落とし
その名前を見た俺は、思わず口元を抑える。
「……春日
――――春日夕帆です」
(―――『春日』……って、
ホント君は……)
受け取ったそれを俺のスーツの内ポケットにしまい、
俺も名刺を取り出そうとして…止めた。
「俺は――――、
…知ってるか、
初めて会った時に
連絡先書いたメモ渡したもんね 」
言いながら彼女に視線を送ると
いつの間にか彼女のその瞳は震えていて、小さく唇を結んでいる。
俺の返事を待っているというよりも
……そんなんじゃない、もっと違うなにかが彼女をそうさせているんだろう。
そんな彼女に俺は微笑みかけると
ゆっくりと目を閉じた。
瞼の裏にいつも浮かんでいた笑顔は
少しぼやけていて、
もうはっきりとは思い出せなかった。
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