エピローグ

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瞼をあけて、 俺は彼女を目をじっと見据える。 ――――君は、 君は俺の中に長い間訪れなかった“春"になってくれるんだろうか 「…春日さん、」 初めて俺がそう呼ぶと、 彼女は背筋を伸ばして緊張した面持ちでこちらに向き直る。 「――はい」 「君は俺の心に残った『雪』を、  溶かしてくれる?」 一瞬目を開いた彼女は 俺と視線が絡むとしっかりと俺を見つめ、小さく頷いた。 「―――はい」 「…俺の中に……結構あるよ、 “残雪 "」 「――それは………覚悟してます」 「……そっか、それは頼もしい」 大きく風が吹いて はらりはらりと沢山の桜の花びらが舞い散ち、俺たちは顔を上げてただその花びらを見つめる。 「――――今夜、」 「え…?」 「終わったら連絡して?ご飯でも食べようか」 「…………」 唖然として俺を見つめる彼女に 俺はベンチからゆっくり立ち上がると 肩を竦めて言葉を続けた。 「だって俺、君の事は  今訊いた名前とケータイ番号しか知らないから」
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