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「で、本題だが、おまえさん何か見なかったか?ここにつれてこられる前に。」
「ここに…つれてこられる前……?」
「そうだ、どんな些細なことでもいい。何か、覚えていることはないか?」
はて、自分はいかにしてこのような辺鄙なところに来たのだろう。
どうしてせまい線路の間に寝かされていたのだろう、それも、両腕を固定されて。
痛みが圧倒的な自己主張をする中、彼は必死に頭をめぐらせた。
「なんでもいい、本当に何でもいいんだ。何か、何かないか?」
警官が嘆願するようにこちらを覗き込む。
はて…、一体全体自分はどうしてこんなことになったのか。
ああ、そうだ。あの日。
「あー、最後に記憶に残っていることは、なんだ?」
あまりに自分が長く黙っていたからなのだろうか、警官が質問を変える。
最後、最後…。
「仕事…の帰り道……」
そこまで思い至ってふと気になったことを聞いてみる。
「あの、今日は何曜日ですか?」
「今日?今日は金曜日だ。」
「金…えっ?」
あわてて警官に日付を教えてもらう。
自分が最後に仕事から帰ったのも金曜日だったからだ。
その日は丁度、二週間前だった。
頭に恋人のことがよぎる。
恋人の誕生日も二週間前だったからだ。
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