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「本当あんたのバイクは、ウルサイよねぇ」
「じゃあ、歩いて帰れよ!てか何で俺がお前を送ってかないといけねぇんだ?」
マジェスティーに跨りながら真紀に言うと、
「まぁまぁ、いいじゃないの…ね!」
そう言いながら、真紀がマジェスティーに跨ってきた。
俺は、それ以上言うのが怠くなり、抗議することを諦め、アクセルを回し、マジェスティーを発進させた。
二車線の道路から、四車線の道路へと進み、真紀の家へ向け、マジェスティーを走らせた。
スピーカーからは、EMINEMからKREVAへバトンをタッチしていた。
俺は、KREVAの歌詞を口遊みながら、マジェスティーを操った。
運良く信号に引っかかる事なく、十分程走ったところで、右手に真紀の家が見えた。
俺は、マジェスティーのスピードを落とし、ハザードを点灯させ、道路の脇へマジェスティーを停めた。
「サンキュー!じゃぁね勇二」
マジェスティーから、勢いよく飛び降り、真紀は手を振りながら言った。
真紀に向かい、俺が片手を上げてみせると、真紀は満足そうに頷いて笑い、家の方へと歩いて行った。
横断歩道を渡り、真紀が家の中へ姿を消したのを確認し、運転で少し疲れた肩を回し、ポケットの中からタバコを取り出し、百円ライターで火を点けた。
「チッ。ウレセェなぁ」
自分の正面から、歩いて来たカップル。
男の方が言い、自分を敵意に満ちた目で睨んでいた。
ブチッ、と何かが切れたような音がした。
「何ピーピー鳴いてんだ?」
「本当ウルセェなぁ」
「汚ねぇなぁコイツ、鼻水垂らしてるよ」
何年も前の記憶。
小学四年から六年までの三年間、俺は決して忘れる事の出来ないような、イジメを受けていた。
周りの友達だった奴も、その時の担任の教師でさえも、俺に嫌がらせをしてきた。
「何コイツ、ヘタレじゃない?」
ネックレス、ブレスレット、ピアス、時計…必要以上に装飾品を身に付けた女が言った。
タイムスリップしていた記憶を引き戻した。
男の言葉と、敵意に満ちた目。昔の記憶。女が発した「ヘタレ」の一言。
その全てを受け、沸き上がる殺意。
暴走してしまいそうな気持ちを、必死に堪え、俺はサイドスタンドを立て、マジェスティーから降り、男の方へ歩いて行った。
男を睨み付け、マジェスティーのスピーカーから流れる般若の歌詞を口遊みながら、軽い足取りで一歩ずつ近付いた。
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