16人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
『美奈』
私を呼ぶ声に振り向くと、私の婚約者が笑顔で手を振っていた
私は吸いかけの煙草を灰皿に押し付けて満面の笑みで私に駆け寄る彼の元へ歩く
『遅くなってごめん、支度に手間取っちゃってさ』
眉を下げて人懐っこい笑顔で謝る彼に微笑んで見せた
「厚志ったらさぁ、今日遅刻するとかホント無いよ?
着るものは前日に用意してって言ったでしょ、もう」軽く拗ねて見せると彼は肩を竦めて、眉を下げて笑う
厚志の困った時の仕草だ
今日、私は彼と結婚する
私は篠崎美奈になる
そして、妻になる
『ごめんってば、ホント
ほら、会場行こう?』
彼はヘラヘラと私の機嫌を伺いながら手を繋いで歩き出した
灰皿から立ち上り空に溶ける紫煙に、一瞬だけ視線を向けて、彼女と私の幸せを願ったのは、良く晴れた12月の始めのこと
最初のコメントを投稿しよう!