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病めるときも、健やかなるときも…
私の五感に掛かる靄は、純白のウェディングドレスのドレープのせいだけではないだろう
神父の声も填められた指輪のひんやりとした感覚も、誓いの口付けさえも、どこか遠くの出来事のようで、家族や友人の祝福にぎこちなく笑うことしかできなかった
それでも彼らは社交辞令だと丸分かりの顔で私を綺麗だと褒めそやしたり、先に結婚した事への嫉妬が見え隠れする笑顔で涙を流してお幸せに、と言う
私は冷たい心を抱いたままありがとう、と返した
今頃、彼女、理彩もこんな風に心無い祝福に囲まれて真人さんとキスをしているのだろうか
理彩を想うと、何も感じなかったハズの胸がちりりと痛んだ
誤魔化すように、厚志を見上げると眩しいくらいの笑顔でお礼を言ったり、照れ笑いをしたり、表情が忙しく入れ替わる
どれも私が知ってる顔だ
私の視線に気付いたらしく、こちらを向いて柔らかく微笑んでくれた
私は厚志のこの表情が、とても好き
味気ない幸せを噛みしめて私は微笑むことしか出来なかった
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