【四年前の】誘拐犯と作戦会議【追憶】

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「それで、これがァ」 『っ、?』 いきなり運転席を倒して、後部座席へと誘拐犯が移り込んできた。それに思わず仰け反る。急になんだ、と驚きながら俺は誘拐犯を凝視した。 近づくと、成人もしていないくらいにますます若く見える。やはり甘ったるい匂いが鼻をくすぐる。 …後部座席の俺の横まで来た誘拐犯は、シートに転がっていたあのボールペンのようなものを手に取った。そして、 誘拐犯は、にやりと笑って口を開いた。 「これがGPS装置を探知する機械。試作品だから半径1メートルまでしか探知できねェんだけど」 『…そんな機械あるんですか』 「あるっつーか、俺が趣味で作ったもんだからァ」 『ほんと、何者ですか…』 無意識に呆れたというより、疲れた声が出た。この人やっぱ普通じゃない。すると、 「―…只の誘拐犯」 妖艶に笑ってみせる、そいつに思わず、誘拐犯って時点でおかしいんだよ!とつっこみたくなったけど、何とかこらえた。その場の勢いヨクナイ。 …言動といい、醸し出す雰囲気といい、俺に危害を加えてくるようには思えないけど。得体の知れない男に、砕けた口調で話すのは、当たり前だけどまだ抵抗があった。 まだ、俺を誘拐した理由とか、肝心なことは聞いてないんだ。それを知るまではこの男に得体の知れない恐怖を感じることから逃れることは難しい。 …たとえ、俺の目の前でこの誘拐犯が屈託のない笑みを浮かべて俺の頬をつついていても。なぜつつかれている、俺。
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