【四年前の】誘拐犯と作戦会議【追憶】

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「何故か、すごく息苦しい。分からないけど、抜け出したくて、たまらない。―…違う?」 問いかけ口調なのに、確信を持った澄んだ瞳が俺を映す。 『…っ、はは』 俺の喉から乾いた笑いが漏れた。 何で分かるんだ、とか、見透かされていることへの驚きとか、不安とかいろいろあった。俺は咄嗟に誤魔化すことができなかった。 黒曜石みたいな、澄んだ瞳に見つめられて、――――…嘘がつけない。 『…よく、調べてるんですね』 「まァね」 『抜け出したい、って言ったらどーしてくれるんですか』 「言っただろ?お前を買ってやる、ってさァ」 髪をからめとるように、細い指で掬ってくる黒に目を細める。今俺は、この男に甘やかされている、と感じた。 なに、ほんと何なのこの人。と、俺は脳内で思考を巡らそうとして、やめた。意味不明だし、謎めいている。そもそも俺はこの男について何も分かっていない。だけど、 『あの家から出られるんなら…それもいいかもね』 「上等」 精一杯、いつも通りの表情をつくった俺に、こころを見透かしたような黒がまたケラケラと笑う。なんだか俺も口元がゆるんだ。 ひとしきり笑った誘拐犯が、俺の目を見つめて悪戯に口角をあげた。 「じゃあ、ほんとの作戦会議のはじまりィ。あ、敬語はもうナシね」 『…ほんとの?何それ』 「決まってんだろ?あの水沢家の性悪おばさんから、金引き出す手順についての会議だよ。どうせならなるべく愉しくやりてェじゃん?」 『身の代金要求を、愉しく?』 「あーもう身の代金じゃねェけどな。陽はもう返すつもりねェし」 陽が了承してくれてよかったァと、喉を鳴らして満足そうな誘拐犯に、俺は小さく頷いた。 会ったばかりの、それも誘拐犯で、俺のこと調べ上げてて、挙げ句の果てには買うとか言ってるオカシイ男。しかも、予想通り未成年。 信用できるところが一つもねぇのに、もう逃げ出そうなんてこれっぽっちも思えない。 何故だろうか。この男……黒が俺にとって大きな存在になる、そんな不確定な、根拠もないそんな予感がしていた。
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