《第一章》

25/38
前へ
/274ページ
次へ
香川が到着後すぐに引き継ぎを済ませ、現場を仕切っていた佐々木さんに声を掛けて、今日で帰る事を告げると── 「お、何だ!明日帰るっつうから今日はこの後、皆でパーと、宴会でもするつもりだったのに、あと1日も堪えらんなかったか!」 わっははは…。と、豪快に笑う佐々木さんは仕事に対しては一切妥協を許さない頑固な人で、ここへ来て何度衝突したか分からないが、こうして歳の離れた若僧の俺に対しても気さくに接してくれる尊敬する人だが…。 「明日帰るっつうから【今日は】宴会…」 そう言ってはくれたが…。 1ヶ月ほぼ毎日のように仕事の後、引きずられる様に飲み屋へ連れまわされた記憶しか残っていない。 そんな佐々木さんの話しを苦笑いしながら聞いていた俺の肩をガシッと掴んできた。 「ま、無理もねーか。新婚早々こんなとこに1ヶ月も出張は災難だったな。だが、最後に夕飯くらい一緒に食ってくだろ」 夕飯ぐらい…。そう言って仕事上がりに香川と佐々木さんに、いつもの大人数で、佐々木さんの行きつけの小料理屋へ行ったまではよかったが…。 酔った佐々木さんに散々酒を勧められ断るのに苦労した。 その後まだ飲みたりないと言う佐々木さんを香川達に任せ、車を走らせ帰る途中いつもより早いが、みことへ電話をかけるため車を停めて携帯を耳に充てた俺に聴こえてきた声は── 「みことなら今、お風呂に入ってるので電話に出れませんよ?あの…。急ぎの用なら…みことに代わりましょうか?」 「いや…。」 みことは今日も、仕事の後また前の職場へ行く事も、葵からの誘いを断ってしまった事もメールに書いてあった…。 それなのに…コイツの事は…。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2007人が本棚に入れています
本棚に追加