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あの時の、航平さんも──
今と同じ様に…その左手の中で大切に握られている携帯の画面を、悲しそうな顔で見ていたから。
航平さんが、泣いちゃうんじゃないかって…
私は胸が苦しくて、声を出してしまったら自分の方が泣いてしまいそうで…だから、どうしても声を掛ける事が出来なかった…。
私は…あれからずっと、悔しくて。
いつも明るくて、私が少しでも何かに悩んでいると、気づいて話を聞いてくれる、そんな優しい航平さんに、私は何にもしてあげられなかったから。
声を掛けてベランダに居る航平さんの隣に立つと、フッと、優しく微笑んで──
「俺、すっっげぇー好きだったんだよね…」
そう言って私に見せてくれた。
航平さんの、手の中にある携帯の画面いっぱいに大きく写っていたのは──
黒髪の……今よりも少し幼い顔で、本当に楽しそうに笑って、こっちを見ている。
その彼女の頬に…添えられている、その手は…。
きっと、この写真を写した…航平さんの手だ──
───弥生…さん?
弥生さんだと気づいた私は──
ドクンと、痛い鼓動を感じながら…私はまた何にも言えずに、ただ航平さんの話を聞く事しか出来なかった。
「俺の誕生日って、3月なんだけどね。
偶然、弥生も…あ!その子、弥生って言うん だけどね。
それで、俺ずっとバスケばっかやってて、バイトとか、してなくてさ。
初めての弥生の誕生日に、ろくなもん買ってあげれないし、おまけに、自分で稼いだ金でもないしで本当情けなくてさ。
3年で引退してから、すっげーバイトして……これ…かったんだよ」
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