ただの落書き

3/32
前へ
/32ページ
次へ
ああ…今日もいる。 私は右手に持った教科書とノートと筆箱をぎゅっと強く握りしめて早足でそこを立ち去る。 「お前、マジでキモいってー!!」 「ウケるわー!!」 高らかに笑う声は別に私に向けられたものじゃないんだけど、なぜか自分が笑われているのではないのかと考えてしまい、うつむき、なぜか息を止めながら立ち去る。 毎週毎週…こんな授業なくなってしまえ。 「…だからー、このitが指すものはー………」 これまた運良く窓際の一番後ろの席をゲット出来た。 風があたって気持ちいいし、冬になっても日差しがあるから快適だ。 そして、この席には私の密かな楽しみがある。 それは、机の隅に書かれた落書き。 [ねむい][わけわからん][ハゲ]とか、誰かの歌の歌詞とか。 毎週毎週増えていく。 今日は………生徒指導の烏野先生の似顔絵なのだろうか、イカツイ顔のオジサンの絵の下に[カラス]と書かれている。 烏野先生の顔をハッキリ思い出せない私は、今日の落書きに飽きて窓から見える本校舎を眺めていた。 1年から3年の教室が全部見渡せる。 遅刻してきた人も分かるし、先生が廊下で携帯触ってるのもわかる。 その時、職員室からたまたまジャージ姿の烏野先生が出てきた。 実際の烏野先生はもう少し柔らかい表情をしてるし、そんなにシワなんてないし、眉毛も目もつり上がってない。 でも、雰囲気は似てる。 何故かおかしくなって、口元を手で抑えながら小さく笑った。 「こらー、小笠原ーー。窓の方ばっか見てないでちゃんと授業聞けーー。」 「…はい」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加