第6章

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「変なこと考えているの?」 スーツ姿の椿さんが堂々と立っていた。あまりの存在感に周りがざわつき始めている。 『椿!?今日は残業だったじゃないの?』 驚きを隠せない皐にため息が出てしまう。 首席は椿には敵わないということに対して。 「質問の答えになってない。今日は残業の予定だったけど、上司の有難い提案で午後から半休になったのよ。時間が空いたから、院の教授に挨拶しに来たんだけど‥貴女の所に寄って正解だったみたい」 『うっ!だったら、教授に挨拶しに‥』 皐の言葉が言う終わる前に椿さんは、皐にかなり接近していた。 無言の重圧である。 「椿さん、皐は私のために色々と考えてくれていまして、変な企みではありません。」 なんとなく、危ない空気を察知して椿さんに口を出した。 すると、椿の雰囲気が落ち着いて、ゆっくりと椅子に座った。 「京香ちゃんが言う程だから、変な企みではなさそうね。全て話してくれる?京香ちゃんと涼子の関係をね」 「えっ?なんで涼子のこと分かったんですか?」 「あら、本当に涼子のことだったのね。ごめんなさい、カマをかけたの。」 勘が鋭いと皐から聞いていたけど、本当に鋭いと感じた。 横目で皐を見ると、まだビクビクしている様子。 「では、話します。」 私は正直に涼子とのことを話した。椿さんは静かに相槌をうち、真剣に耳を傾けている。 全て話終わり、椿さんの様子を伺っていると考え込んでいる。 綺麗な手が額に置かれ、軽いため息を吐いた。 「なるほどね。事情は分かった‥涼子は自分のことを全く話さないから、掴みづらい部分があったのよ。涼子の様子が変わったのは、京香ちゃんのおかげね」 「涼子が変わった?椿さんには、話していると思っていたのですが‥」 私は目線を下に向けて、涼子は一人で悩んでいたことに胸が締め付けられた。 「陽子、涼子、私を含めてあまり自分のことを語らないから。皐の提案は良いと思うから、涼子には伝えておくわ。うちの猫はいつまで怯えているの?」 椿さんは横目でチラッと皐を見た。 とても優しい瞳で見ていることに少しだけ見とれてしまった。
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