―アマヤドリ―

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「あ、本物だ」 他に客が居なくて良かった、本当に…。 静かにボソリと言われた言葉にぎょっとして相手を見返すとなんとも言えない顔をしていた。 「雨に降られてシケてたけど、俺めっちゃツイてんじゃん…?」 直ぐにでもその場から逃げ出したいのに初めて遭遇した自分の本の読者への興味と、相手のはにかんだ表情が足をその場に縫い付けた。 自分を【榊原綾】と結び付けるこの男はきっとコアな読者に違いない。 著者近影はハードカバータイプのものにしか載せていない。 つまるところ、目の前の男は今手にしている文庫本を集めてるわけではないのだろう。 文庫のタイトルを見てみれば大判書籍の方は来月の増版まで市場には並ぶことの無いものだった。
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