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優しい風が吹く2学期のある日。
「陽奈(はるな)、おはよー」
友達の上野咲希(うえの さき)が、小さな歩幅で走ってくる。
その動きに合わせ、長くてさらさらの髪が揺れる。
咲希の髪は、本当にきれい。
それは咲希も認めていて、本人曰く、“自慢できるのは髪だけ”らしい。
「おはよう」
「数学の宿題、難しくなかった?」
「うん、すごい難しかった」
友達とする、いつもと変わらない会話。
「だよねー。しかも今日、抜き打ちテストがあるらしいよ」
「えっ、そうなの? でも、知ってる時点で、もう抜き打ちじゃなくなってるよね?」
「あはは、確かに。でもどこの範囲が出るかは分からないから。……あの問題だけは出ませんように」
「どの問題?」
「言ったら出てきそうだから言わない」
この日が忘れられない日になるなんて、登校したときには思ってもいなかった。
もっと天気が悪ければ、何か起こると思ったかもしれない。
……ううん。どんな気候でも、絶対に分からなかった。
あんなことが起こるなんて、想像しようと思っても出来なかったから。
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