空白の時間

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 どうして否定してくれないの? 「何? その話」って、言ってほしかった。  会えない間にわたしが想像していたハルは、もっと優しくてかっこよくて……  こんなことを思う度、自分が嫌になる。  そんなのただの妄想だから。 「陽奈?」  昇降口で名前を呼ばれた。 「まだ学校いたんだ。……体調、また悪くなったの?」  橘くんがわたしの顔を覗きこみながら聞く。 「……橘くん」 「なに?」  橘くんが優しく微笑む。  さっきのハルとは全然違う笑顔。 「……すき」 「えっ」  橘くんは目を丸くした。  そしてわたしをそっと抱き締める。 「俺も好き。……大好き」  橘くんの背中に手を回すと、砂の匂いが鼻腔をくすぐった。  部活中の橘くんの匂い。 「橘ー! どこだー?」 「やべっ」  橘くんが勢いよく体を離した。 「先輩が呼んでるから行かなきゃ」 「……うん。邪魔しちゃってごめんね」 「ううん、おかげで元気でた。頑張ってくる」  グラウンドに走って戻る橘くんの背中を見ながら、心の中で思う。  わたしは橘くんが好き。――大好き。 
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