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「わがままな人なんだね」
リリィが切なそうにそう言った。
自分主義、自分勝手、身勝手に相手を引っ張っていく。
そんな気概を、少しは彼にも覚えてほしい。
もっと自分勝手に引っ張っていって欲しかった。
そう心に思いながらリリィは最後の魔法を唱えた。
「無能力【オーバーチェックメイト=フィアンテ】」
相殺。
降り注ぐ粒子を受け入れる粒子がぶつかり合い、消滅。
王都全てを飲み込みかけた粒子は、なんともあっさりと消え去っていった。
「無職ってのは、世知辛いねぇ」
そして満足そうに両腕を広げて、爽やかな笑顔で立ち尽くす男に向かって、黒粒子を打ち出した。
体を構成する細胞を食い破り、その身が滅んでいく。
頭の中は真っ赤に染まり、これほどの激痛は生まれて初めて感じるものだ。
「おい……リリスエルダ……」
激痛で頭は冴えているが、意識は薄れていくという矛盾の中でレリュートは口を開いた。
「俺という存在を……俺という最強の存在を……」
レリュートはリリィの魔法をなんとなくだが把握していた。
自分と同様の魔法を使用できる。
「その身に……宿せ。 覚醒の権利【オーバーチェックメイト】」
無意味に使用された覚醒魔法。
リリィにその概要を伝えて息を引き取った。
最強という立場を得て、その日のうちに命を終える。
結局は誰にも名前を覚えてもらえず、彼は一人の少女によって殺された。
しかし彼は王国最強という国の頂に立った男。
彼を殺したのは彼自身が持っていた魔法。
誰か他の人間が持ち得るものではなく、自身の魔法でその生涯を遂げた。
いずれ来るであろう種族同士の対立で、より強い相手と対峙した時、リリィはきっと覚醒の権利【オーバーチェックメイト】を使うだろう。
死してなお、今度は世界の頂を目指す。
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