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針を動かす。
ただひたすらに目の前の布の渕を縫っていく。
ーーハンカチを創り上げろ。
ただそれだけに意識を集中させ、ハルミはひたすらに針を動かしていた。
地下牢の大広間では何人もの囚人達が固唾を飲んで見守っていた。
ハルミの隣でハンカチを縫っているのは歴戦の王者。
そしてハルミは針を置いて走りだした。
『動き出したのは同時! いや、ハルミの方が若干早かった!』
実況が熱く叫んでいる。
ハルミは隣の王者よりも速く走り、そして立てられた小さな旗に向かって飛び込んだ。
ハンカチを縫い上げて、出来上がり次第走り、相手よりも早く旗を奪取する。
『どっちだ! 旗を持っているのはーーハルミだああああ!』
ドッと湧き上がる歓声。
地下にある大広間が熱く湧いていた。
「よっしゃあああ!」
ハルミの雄叫びに合わせて囚人達が彼の元へ走り寄った。
『ハンカチフラッグ優勝者! 第三十七代ハンカチ王子は囚人番号九百二番、ハルミに決まったあああ!』
ハルミはまたパクられていた。
戦争が終わって、革命軍残党は全員監獄にぶち込まれた。
王国軍が徴兵されて兵隊のグループ分けが行われている時、ハルミは訳あって王都にはいなかった。
彼の存在は王国軍の帳簿に記載されていない。
革命軍残党と間違われたハルミは、問答無用で牢獄へ連れていかれてしまった。
とはいえ冤罪であることは既に証明されている。
釈放が決まった時には、既に地下牢主催のオリエンテーションに参加が決まっていたため、投獄期間が伸びてしまった。
「やりましたよ! 無職係のお姉さん!」
「おめでとう! でも無職係はやめて!」
数多の強豪を抑え、ハンカチ縫いの達人として君臨したハルミ。
今までで一番良い笑顔で笑っていた。
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