最終話【就職活動】

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「アレク。 席を外しなさい」 献上品として受け取ったパイプに葉を詰めながら、グラデシアが告げた。 牢獄で嗜好品をもらえるという特別過ぎる待遇。 本当に目の前の女は囚人なのかと疑いたくなった。 「それはできません」 「私が外せと言ってるの。 聞こえなかったのかしら」 一瞬で空気が変わる。 元から重苦しい雰囲気だったが、その重圧はさらに増した。 関係無いハルミでさえも少しだけ身を引いてしまうほどだ。 「斬首の日程は決まっているのでしょう? それまでは好きにさせてもらうわ」 要するにグラデシアは、アレクがいては話しにくい会話をしようとしている。 ハルミにはそれが何かわかっていた。 意外な気遣いに戸惑いながら、ハルミが気を利かせた。 「大丈夫です」 「……三つ約束をしてくれ。 鉄格子に手を触れないこと、彼女の言うことを聞かないこと、何を話したのか報告すること」 ハルミが大きく頷くと、アレクがその身を引いた。 廊下を歩き階段を上がる音が聞こえてくる。 これでここにはハルミとグラデシアの二人きりだ。 庶民と王族が二人でいる。 そしてこの場所は地下牢獄。 全てが異常なことだった。 「してやられたわね。 まさに自業自得」 パイプを堪能しながらグラデシアは楽しそうに言った。 何がそんなに面白いのか、ハルミにはわからない。 「戦争終盤になるまで、私はあなたをリリスエルダだと思って警戒していた」 ハルミが大きな成長を遂げたのには様々な要因があるが、最も影響を与えたのはグラデシアの拷問だろう。 原因はハルミという庶民の過小評価。 誰よりも醜く喚いていたハルミが、戦争を終わらせるカギとなった。 「買いかぶりです」 「謙遜はよしなさい。 私はあなたを認めているのだから」 結果的にハルミは三隊長全てと戦闘した。 一般兵士以下の存在である彼のやったことは、誰にも知られていないものの、それは偉業そのものだった。
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