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グラデシアが口から煙を吐き出している。
認めてもらえたというのは結構なことだが、なんだか酷い手のひら返しにも感じた。
「リリスエルダとはいつまで一緒にいるつもり?」
これが本題だ、ハルミは直感的に感じ取った。
アレクをこの場から去らせたのも、リリィの話をしたいがための気遣いだろう。
そもそもリリィとはこんなに長く一緒にいるつもりはなかった。
そのうち誰かが迎えに来ると思っていたが、ハルミの目の前に現れた魔物は二人のみ。
グリフは連れて帰るつもりはなさそうだし、きっとサキュルミナはもう現れない。
いつまで、という質問に答えるのは、ハルミにとって難しいものだった。
「我が国、ハルシュタットを色で示すとしたら何色か」
痺れを切らしたグラデシアが話題を変えたーー
ように聞こえた。
「色、ですか?」
「そう。 あなたが今まで生きてきたこの国の色」
グラデシアが含みのある口調で続ける。
「魔物が黒、天使が白。 では人間は何色でしょう」
簡単な問題を幼い子どもに教えるために、ヒントを出す母親。
グラデシアからの敵意はまるで感じられない。
本当に彼女はハルミのためを思って話しているようだ。
良く言えば中庸の国。
悪く言えばどっちつかず、優柔不断。
一見して天使よりに見えるこの国だが、魔法使いと僧侶という二極の職がある以上、結局はどちらにも寄れない。
「例えば、私の言葉を文字にして、それを読んでいる人間にもその答えは簡単にわかるでしょうね」
グラデシアは以前、レリュートにも同じ質問をしたことがある。
散々ヒントを出した挙句、彼は笑いながら言った。
「レリュートは緑と答えたわ」
「なんで緑……?」
「さあね、私にはわからないけれど」
グラデシアは思い出しながらクスクスと笑っていた。
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