最終話【就職活動】

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「何にするんだ?」 取り敢えず注文を聞かなければ話にならない。 親父は腰に手を当てて、伸びをしながら聞いた。 「魔法使いって出せます?」 「残念だが人肉は取り扱いが無い」 がっかりした表情に見える虫が、仕方なくメニューに目を向けた。 魔法使いの取り扱いがある店があるのか聞きたいところだが、なんだか怖くなってそれは止めておいた。 やはり肉食虫か。 変なペットを連れてこられたものだ、親父はため息を吐く。 「野菜炒めください。 油控え目で」 「えっ? 野菜?」 「うん。 油控え目の」 少しだけ戸惑いながら、親父が食材を取り出した。 肉食虫ではなかったらしい。 言われてみれば虫とは本来、花の蜜や草を食べて生きているものが多い。 油控えという健康思考の虫に感心しながら、親父が調理を始めた。 「そっちのお姉さんは?」 「僕は林檎一つでいい」 じゃあ八百屋に行ってくれ、そう言いたいのを堪えながら親父は林檎を皿に乗せる。 皿に乗せられた林檎を齧りながら、女が虫に話しかけた。 「キミはこれからどうするんだ?」 「決めてません。 くそぼろっちいアパートの二階でしばらくは鳴いて過ごそうと思ってますけど」 勝手に住み着くこと前提で、虫は野菜炒めが出来上がるのを楽しみに待っていた。 意外に人間らしい虫けらだ。 「英雄、女傑、好敵手、悪党」 女が唐突に話題を変えた。 「僕が考える生き物の役割だ」 「へえ、女傑は女限定ですか?」 「いや。 物語の英雄に男が多いから、女傑が女に象徴されているだけ。 男でもヒロインには成り得るさ」 親父にはまったく理解できなかった。
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