最終話【就職活動】

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「僕は昔。 英雄、女傑、好敵手、悪党、全てが揃ったパーティにいた」 誰よりも強く、誰よりも拙い英雄。 その英雄の後ろにくっていているだけの、バカな女傑。 英雄には決して勝てず、それでも引き立て続ける好敵手。 倫理観に欠如した、行動全てに意味のない悪党。 「充実していたよ。 なぜ充実していたか? それは本人たちが役割を全うしていたからだ」 「あなたはどう考えても悪党でしょうね」 「はははっ、僕が英雄に見えるかな」 全てが英雄を成長させるために尽力する。 それは本人たちが役割を知っていて行うことではない。 成長させてくれた恩返しとして、英雄は彼らに勝利を与える。 英雄に負けは許されない。 「女傑は英雄に意志を与える」 戦う意志を失えば、英雄といえど勝利することはできない。 精神状態の向上、メンタル面で英雄を成長させるのは女傑の仕事だ。 「好敵手は英雄に強さを与える」 元から強くなんてない英雄に強さを与えるのは好敵手。 競争が無ければ人間は強くなんてなれないだろう。 「アレクさんは村にいた時から強かったけど」 クルツが口を挟んだ。 誰の、どんな話なのかピンと来たからだ。 「小さな田舎村ではね。 王都はそんなに甘く無かったのさ」 ナナシは続けた。 「実はその二つだけでは英雄は成り立たないんだよ」 ヒロインとライバルだけでは、物語は成立しない。 それだけでは自分の中にあるだけの、歪んだ正義を振りかざすだけの傀儡と何も変わらない。 「英雄に正義を教えるのは悪の仕事だ」 良いことと悪いことの違いは人に教えてもらわなければわからない。 小さな子どもは親にそれを教えてもらう。 王国を担うほどの英雄でさえ、それは変わらず、誰かに教えてもらわなければわからないのだ。
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