ふなたまっ!

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 姉妹艦という言葉があるように。  古今東西、船乗りたちは船に魂が宿ると考え、その性別は女性であるとされてきた。  いわゆる『船魂』というものだ。  ……端的に言えば、  昔から、男どもは擬人化萌えを楽しんでいたということなのだろう。   時刻は午前十時。出かける予定だった時間だ。  しかし私はまだ家にいる。一緒に外出する『彼女』が大寝坊をしやがったせいだ。あんにゃろう自分からしつこく『デート』だ何だと誘ってきたくせに……。  ちなみに。デートに誘われた私は女性で、誘ってきたあいつも女性だ。もうそんな細かいことは気にしない――というか、麻痺してきてしまった自分が少し悲しい。 「はぁ~~~~~っ」  私は盛大すぎるため息をついてから『彼女』の部屋のドアを開けた。ノックなんてしない。寝坊をするような人間に使う仏心などない。せいぜいその汚い部屋を見られて慌てふためくがいいわ! ふははははっ!  と、なぜか悪役風の笑いを脳内でしながら私は『彼女』の部屋に一歩を踏み出せ――なかった。汚い。とにかく汚かったのだ。万年閉められたカーテンのせいでジメジメしているし、読み散らかされた雑誌や本は、そうしなければ存在が抹消されてしまうかのように床を覆い隠している。せめてもの救いは(きつく注意し続けたおかげか)食品の食べ残しが腐海を形成していないことか。いやそれでもこの汚さには辟易としてしまうけど。 「ったく」  覚悟を決めて雑誌類を踏みつぶしながら奥へ進むと、そう時間をおかずに部屋のぬしの元へと到着した。つまりは寝床。散々ワガママを言って手に入れたパイプベッドで『彼女』は布団を頭まで被って微動だにしていなかった。  ふたたびのため息をついてから私は『彼女』を起床させようと試みる。 「……大和。サッサと起きろ。約束の時間は過ぎているし、今日はお布団を干すって言ってあっただろう?」  大和。  女性らしくない名前。しかしまぁ『彼女』は正確に言えば女性どころか人間ですらないので問題は無し。というか、そんなことを言い出したら私の口調だって女性らしさの欠片もないし。『らしさ』に関する問題はないものとして考えるのが無難だと思う。  ……いや、問題はあるか。やはり万人が抱くイメージというものは大切だ。もしも軍オタな皆さんが今の『らしくない』大和の姿を見たら卒倒するんじゃないだろうか?  ――大和。
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