ふなたまっ!

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 名字はない。ので、仮として私と同じ『夜美野』を使わせている。その正体は『自称』大日本帝国海軍所属戦艦・大和であるらしい。正確には大和の船魂。……彼女の言葉をすべて信じるのなら、だが。  ただまぁ、日本が誇る『超弩級戦艦』の船魂がこんなニート一歩手前の引きこもりだなんて信じたくないので信じない。憧れのためには目を閉じて耳を塞ごう。  しかし現実から逃げても事態は好転しないし、寝坊した大和への怒りも収まらないので、私は自分でも驚くほどに冷たい声を絞り出した。 「……起きないと夕食抜きにするぞ?」  ビクリと。布団の塊が震えた。どうやら大和は私が部屋に入ってきた時点で目を覚ましていて、それでもまどろみの中に意識を泳がせていたらしい。えぇ度胸しとるやないけぇ。  私は布団をむんずと掴み、あらん限りの力で引きはがそうとした。 「さっさっと起きろ! この引きこもりが! ったく! 『自分から外に出ようとするなんていい傾向だなぁ』と思ったら矢先にこれだよ!」   私の渾身の力は、しかし布団の端を掴んで抵抗した大和によって所定の目的を達成することができなかった。くそうやはり力じゃ勝てないか。そりゃあ私も人より力があるつもりだけど、15万馬力相手は無理がある。  大和は布団の中で激しく首を横に振った。 「い~や~な~の~! 太陽が! 眩しいの! こんな日はお部屋で引きこもっているのが一番なのよ!」 「誘ってきた人間が何を! いいから起きろ! 大和を名乗るならもうちょっと『シャキ』っとしろ! 一時は連合艦隊の旗艦を務めていただろうが! もっと誇りを持って生きろ生活しろ!」 「私はずっとトラック島に引きこもってたの! 引きこもりなの! だから今この状態も仕方ないのよ!」 「トラック基地は1944年の空襲で壊滅したよ! 安住の地はもう無いんだ! 諦めて起きろこの引きこもり!」 「い~や~! まだトラックは滅んでないの! この場所にあるの! この部屋が私のトラック島なのよ!」 「ああもう! これ以上抵抗するとほんとに夕食抜きにするぞ! おやつも無しだぞ!」 「ぐぬぅ! ……、………、…………っ!」  女性らしくないうめき声を上げてから大和は渋々と布団から顔を出した。  ――美人だ。
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