ふなたまっ!

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 戦艦大和は『世界一美しい戦艦』と称されることが多い船だけど、その名にふさわしいほど大和は綺麗な女性だった。寝癖が付いていながらも艶やかさを失わない黒髪。引きこもり生活のおかげか絹のように白い肌。46サンチ砲を表現したかのような豊満な胸……。少々眠そうな目をしているが、それを差し引いても『絶世』を付けたくなる美女だった。  ……いや、亀のように布団を背負った状態のまま、イモムシのように部屋を這っていく様子はとても美人とは言い難かったけど。まぁ引きこもりが外出する気になったんだから目をつぶろう。 「はぁ……」  こんなのがあの『戦艦大和』だなんて……。私は今さらながらため息をついてしまうのだった。  もぞもぞと『亀』のまま床を這う大和はあえて無視して私が廊下を進んでいると、申し訳なさそうな顔をした美少女と遭遇した。大和に負けず劣らずの美しさ。というか姉妹なのだから甲乙付けがたいのは当然か。見分けを付ける一番簡単な方法は眼鏡の有無。  武蔵さん。  大和のことは『大和』と呼び捨てなのに、武蔵さんには『さん』付けしている点から二人に対する扱いの差というか、二人が私に掛けている迷惑度合いの差を読み取って欲しいところ。私も最初は尊敬を込めて『大和さん』と呼んでいたんだけどなぁ。  二度とは戻らない昔を懐かしんでいると、武蔵さんが頭を下げてきた。 「すみません、空菜さん。姉がまた迷惑を掛けてしまいまして」  私の名前は空菜とかいて『そらな』と読む。可愛らしいというかちょっと気恥ずかしい名前だけど今さら変えることも出来ないのでしょうがない。  私は小さく首を振った。 「気にしなくていい。もう慣れちゃったからな」 「そう言ってもらえると助かります。大和も、本当はもうちょっと真面目な性格なんですけど、空菜さんには甘えてしまっているようでして……」  姉の顔を立ててから武蔵さんはクイッと眼鏡を押し上げた。彼女との間で交わされる常識的な会話に少しだけ感動してしまう私。武蔵さんとは話が通じている感じがしていいなぁ。  ……いやしかし、油断してはいけない。  武蔵さんは、ある意味で大和よりも常識がないのだから。
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