ふなたまっ!

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 なにせ彼女は、室内で、――甲冑としか言い様のない服を着ているのだ。着るというより『装着』の方が適した表現か? 所々に『戦艦っぽい』装飾がしてあるが、一見すればまさしく大鎧。源平合戦が現代に蘇ったかのような錯覚を覚えてしまう。武蔵さんが動くたびに金属の擦れあう音がカチャカチャと。 「……武蔵さん。室内で甲冑を着ているのは、その、動きにくくはないのか?」 「動きにくいと言えば、そうですね。しかし、私たちは船魂ですから。船であったときの心意気は忘れてはいけません。私たちにとってはこれが正装なのですよ」 「は、はぁ……」  鎧甲冑を装甲板に見立てているのだろうか? よくわからない感覚だ。  人それぞれ。そんな言葉が浮かんだ私ではあるが、問題があるとすればこれからのお出かけに武蔵さんも付いてくるということ。つまり武蔵さんは『正装』のまま外出しようとしているのだ。正直勘弁して欲しい。隣を歩くだけでかなりの羞恥プレイだ。  せめてもの救いがあるとするなら、こんな事態が滅多に起こらないことだろうか。武蔵さんも(大和よりはマシであるものの)ほとんど家からで出ない引きこもりだから。……戦艦武蔵も滅多に出撃しなかったからなぁ。  まぁ武蔵さんは家の中なら出歩いていて、大和みたく部屋に引きこもったりはしないのでだいぶマシだなぁと考えながら、私は武蔵さんを説得することにした。だってねぇ街中を甲冑姿で歩くなんてお祭りじゃあるまいし。 「武蔵さん、甲冑だと動きにくいだろう? お出かけするときくらいは普通の服に着替えたらどうだ?」 「いえしかしこれが正装ですから」  頑固だ。  その曲がらない意志は、魚雷二十本を受けてなお轟沈しなかった頑丈さゆえか、それとも味方の囮となって敵の攻撃を一身に引き受けた誇りがそうさせているのか。あるいは単に時代劇や大河ドラマのように『生き様、死に様のカッコイイ漢』の出てくる物語が好きなせいか……。理由は何個か思い浮かんだし、確固たる自分を持っていることは尊敬できるのだけど、現状においては厄介でしかなかった。 「ふぅ」  仕方ないので私は奥の手を使うことにした。使うのが早すぎる気がするけど気にしない。  深呼吸して、覚悟を決めてから武蔵さんの頬へと手を伸ばす。一時の恥ずかしさは、甲冑姿の人と一緒に歩くのと比べればどうということはない。  鉄のようにひんやりとした肌。
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