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「ふぇ? そ、空菜さん? どうしました?」
いきなり頬を触られて慌てふためく武蔵さんはあえて無視。じっと、真剣な目で彼女の黒真珠のような瞳を見つめる。照れのせいか、彼女の肌が温かくなってきた。
「私、武蔵さんの私服姿が見たいなぁ。きっと、凄く可愛いと思うんだ。……私のために、着てみてくれないかな?」
「……もう! 空菜さんに頼まれたら仕方ないですね!」
ちょろい。
このちょろさは、おそらく『資材がないから』という理由で高射砲を積むところを機関銃で我慢していたことに由来するのだろう。『も~、しょうがないですね~』といった感じに。いや私の勝手な推測だけど。
「――えいっ」
と、武蔵さんはくるりと一回転し、着ている服を甲冑から現代風の私服へと変化させた。短大生が好みそうな可愛らしい服に、まばたきした一瞬でだ。『どうやったのか?』なぁんて疑問は船魂なんていう非科学的な存在を前にしては意味を成さないのだろう。
私が小さくため息をつくと、不意に、ガシッと足首を掴まれた。思い出すのは先日見たホラー映画だ。
「空菜~、私の頬も撫でていいのよ?」
貞子のように床を這う大和がそんな要求をしてきた。
「寝坊した子を撫でる手は存在しないね」
バッサリと切り捨ててから私は足を上げ、大和の手をほどいた。
大和がなぜか嬉しそうな声を上げる。
「ふふん、空菜はツンデレね! そんなところがまた可愛いのだけど!」
「…………」
アホの子に付ける薬はないようだ。
最寄りのバス停からバスに乗り、横須賀駅前を目指す。別に歩いてもいい距離なのだけど、大和が『太陽が~』と嘆いていたし、私も肌が日に弱い体質なので選択肢は一つだ。もちろん私は日傘を装備して、日焼け止めも塗ってある。
「……空菜さんの白く美しい肌は、その存分なスキンケアによって保たれているのですね」
バスの後部座席、隣に座った武蔵さんが感心したような声を上げた。彼女たち船魂は日焼け止めを塗らなくても日焼けすることはないらしい。羨ましいことだ。
「ま、私は日の光が苦手だから。……で、今日は何を買いに行くのさ?」
大和と武蔵さん、二人揃って欲しいものがあるらしい。
「え、えっとですね……」
武蔵さんはなぜか恥ずかしそうに視線を左右に漂わせた。
「……し、下着を」
「は?」
「ぶ、ブラを買おうと思ってですね」
「…………」
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