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戦艦三笠は、戦艦大和や武蔵に比べて遙かに小柄で、重巡洋艦よりも全長は短いのだけど、やはり近くで見ると『戦艦』は大きく、圧倒されそうになってしまう。
そんな戦艦三笠のすぐ側に、三笠さんのやっているコーヒー豆専門店がある。横須賀といえばカレーだけど、三笠コーヒーというお土産もあるのだ。
赤レンガ造りの、百年以上前から建っていそうなお店。壁に伝った蔓が雰囲気をヨーロッパにしている。
というか、この公園の管理は横須賀市のはずで、そんな公園中にお店を出してもいいのだろうか……。いや、『船魂』相手に以下略。
「こんにちは~」
古めかしい木製のドアを開けながら私は挨拶した。
照明はランプだけという薄暗い店内。しかし不快感はなく落ち着いた雰囲気を醸し出している。まるで童話の世界に迷い込んだかのよう。暖炉があれば完璧だ。
そんな店内のカウンターで、三笠さんは車イスに座って本を読んでいた。
ページを捲る手には球体関節。だが、三笠さんが人形というわけではもちろん無く、いわゆる義手であるらしい。
本を読めるほど正確な義手があるのかと少し疑問に思うけど、まぁ船魂以下略。
来客だというのに三笠さんの視線は本を捉えたまま。そんな対応に慣れている私はカウンターに近づき、三笠さんの顔をのぞき込んだ。
「何の本を読んでいるんですか?」
三笠さんは年上なので敬語を使う。(いや大和たちも年上といえば年上だけど、外見年齢的な問題だ)
「……ん~?」
と、三笠さんは唸ってから顔を上げた。外見年齢は二十の後半くらい。縁なし眼鏡の似合う美人さんだ。司書さんとして図書館で働いていてもおかしくはなさそう。
「おや、夜美野ちゃんか。久しぶりだね」
三笠さんも(私ほどじゃないけど)女性らしくない口調だったりする。
「はい、お久しぶりです。……またずいぶんとハマっているみたいですね?」
なにせ人の声が聞こえないほどだ。
「ん? これか?」
三笠さんは読んでいた本を掲げて表紙を見せてくれた。……和綴じの古い本だ。達筆な墨字でタイトルが書かれているので読みにくいけど、たぶん『百鬼夜行絵巻』という題名なんだと思う。
三笠さんが嬉しそうに微笑んだ。
「最近は古い本でも比較的容易に入手できるからね。いい時代になったものだよ」
「あ~……」
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