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――――――5年前――――――
「………………」
薄暗い闇の中、1人の男は立っていた。
その男、生まれ変わった自分の身体の感触を確かめるべく、何度も手を開閉していた。
ジジッ……と、白熱電球が点る音が鳴り、この場を照らす。
「……………」
「よぉ、調子はどうだぁ?」
それと共に奥から出でて来たのは、白衣を着た如何にも科学者のような出で立ちである。
「あぁ………、少し変な気分だが…悪くは無い」
「つまり、実験成功って訳だ」
結果に満足らしく、笑いを浮かべる白衣の男。
「これで前例は出来た。――が、何分成功確率は未だに低い」
「どのぐらいだ…?」
「うーん……今のを踏まえて考えても、確率は0.00000…1%」
「限りなくゼロだと言う訳か…」
「そういう事。まぁ、この成功例を研究して上げるつもりだ」
「当然だ。そうして貰わないと、此方が困る」
静かで低い声で、男は白衣の男を睨む。
「ははっ、分かってる分かってる。“アンタら”には恩が有るんだ。それを返さないと、何されるか分かったもんじゃないからな」
腕を広げる素振りを見せ、笑って見せる。
対して、男は笑わなかった。
「ふん…。それなら良い」
ぶっきら棒に言葉を返したこの男は、ふと思い出した事を話した。
「そう言えば此処に来る時、狼のような奴を運んでいたのを見たが……“失敗作”か?」
「あぁ、アレか。そうさ、他のよりは上手くいったがお前よりは上手くはいかなかった。ま、面白いことに“人妖”止まりだったが、失敗作は失敗作だからなぁ。部下に、山に棄てさせた」
「フッ……成る程……」
男はその話を聞いて、話に出て来た失敗作を嘲笑った。
そして、歩き始め、白衣の男の横を通り過ぎる。
「ん?オイオイ、何処に行くんだぁ?」
「なに……、少しばかり…運動するだけだ」
笑みを浮かべ、彼は洞穴へと消えた。
「あー…ハイハイ、成る程ねぇ。だけど、無理はするなよぉ、“夜叉”さんよ」
背中で応える彼の言葉を、鈴の音だけが返る。
その頃、山の中1つ、吠える声が虚空に響く。
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