序章

2/2
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
――――――5年前―――――― 「………………」 薄暗い闇の中、1人の男は立っていた。 その男、生まれ変わった自分の身体の感触を確かめるべく、何度も手を開閉していた。 ジジッ……と、白熱電球が点る音が鳴り、この場を照らす。 「……………」 「よぉ、調子はどうだぁ?」 それと共に奥から出でて来たのは、白衣を着た如何にも科学者のような出で立ちである。 「あぁ………、少し変な気分だが…悪くは無い」 「つまり、実験成功って訳だ」 結果に満足らしく、笑いを浮かべる白衣の男。 「これで前例は出来た。――が、何分成功確率は未だに低い」 「どのぐらいだ…?」 「うーん……今のを踏まえて考えても、確率は0.00000…1%」 「限りなくゼロだと言う訳か…」 「そういう事。まぁ、この成功例を研究して上げるつもりだ」 「当然だ。そうして貰わないと、此方が困る」 静かで低い声で、男は白衣の男を睨む。 「ははっ、分かってる分かってる。“アンタら”には恩が有るんだ。それを返さないと、何されるか分かったもんじゃないからな」 腕を広げる素振りを見せ、笑って見せる。 対して、男は笑わなかった。 「ふん…。それなら良い」 ぶっきら棒に言葉を返したこの男は、ふと思い出した事を話した。 「そう言えば此処に来る時、狼のような奴を運んでいたのを見たが……“失敗作”か?」 「あぁ、アレか。そうさ、他のよりは上手くいったがお前よりは上手くはいかなかった。ま、面白いことに“人妖”止まりだったが、失敗作は失敗作だからなぁ。部下に、山に棄てさせた」 「フッ……成る程……」 男はその話を聞いて、話に出て来た失敗作を嘲笑った。 そして、歩き始め、白衣の男の横を通り過ぎる。 「ん?オイオイ、何処に行くんだぁ?」 「なに……、少しばかり…運動するだけだ」 笑みを浮かべ、彼は洞穴へと消えた。 「あー…ハイハイ、成る程ねぇ。だけど、無理はするなよぉ、“夜叉”さんよ」 背中で応える彼の言葉を、鈴の音だけが返る。 その頃、山の中1つ、吠える声が虚空に響く。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!