ある猫と約束

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  今日は待ちに待ったリボンを買いに行く日です。 実はまだ何色にするか決まっていなかったりします。 クロト君のおすすめは黒色でしたが、私はもうちょっと華やかな色でも良いなあと思うんです。 毛繕いもいつもの倍時間をかけて、髭の調子も整えて。 今日ももふもふ、毛並みも完璧な事を確認すると私はマスターの足下へとすり寄りました。 「…ああ、はやいなクロ。おはよう。」 えへへ、今日はリボンを買いに行く日ですからね。 早起きもしますよ。 マスターからもらえる物は全部、とびきり嬉しいんです。 ぎゅう、と抱きしめてくれるマスターはほんの少しだけ久し振りな気がします。 そういえばお弟子さんが来た初日と二日目はマスターお出かけでしたもんね。 帰ってくるのが遅かったので心配しました。 無理しちゃ駄目ですよ、マスター。 「にゃあ!」 「…ん、どうした。」 目元をなめるときは心配しているとき。 ちゃんと伝わったのかふわりと笑ってくれます。 やっぱりいつ見てもマスターは綺麗です。 大好きだなあと、思います。 「そうだクロ、今日の買い物なんだが…」 はいはいマスター、リボン、何色にしましょうか! 『…あ?なんでお前まだここに…、…どうしたんだよクロ。なんかかびでも生えそうなオーラだぞ。』 『…クロト君。』 『今日はリボン買いに連れて行って貰うはずじゃなかったのか?』 『…。』 “悪い、今日も出掛けてくる。留守番は頼んだぞ。” 『マスターは、お仕事ですよー…。お弟子さんと、お仕事です…。』 『約束は?』 『また今度、です。』 声がした方を見上げれば、クロト君がこちらをのぞき込んでいました。 そのままするするっと私の寝ころんでいたソファーまで降りてくると私の方を伺う素振りを見せます。 マスターはお仕事だそうです。 まだ、事件が解決していないんじゃあ仕方ないですよね。 残念なのはやっぱり、残念なんですが。 『…まあ、気を落とすなよ。』 『はい…。』 クロト君からはふわふわとなんだか甘い匂いがします。 しっぽでくすぐるようにつつかれて、ようやく私は顔を上げました。
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