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『…お仕事なら、仕方ないですよねえ。』
『まあ人間は俺らと違って色々と縛られてっからなあ。』
『クロト君は野良猫ですよね。』
『ああ、だから俺はお前よりもう一つ自由だぜ。』
みんなのためのお仕事です。
それを頑張るマスターを、私が応援しないでどうします。
私、マスターの猫ですから。
むしろお手伝いをする位じゃないと。
『まあ、今日は来て正解だったな。』
『…ああ、そうでした。クロト君はどうしてここに?』
『や、お前がいるかはわかんなかったけど、一応声をかけにきてやろうかと思ってな。お前、花畑って好きか?』
クロト君は機嫌良さげにしっぽをゆらゆらと揺らしました。
『花畑?好きですよ。』
『なら教えてやるよ。今日辺り、町外れの丘のアミラの花が満開らしいぜ。』
『あ、それで今日はなんだか甘い匂いがするんですね。』
『そういうこった。俺は一度もう行ってきたからな。』
アミラの花といったら香水に蜂蜜に、根は薬草にもなるといった大活躍の可愛らしい薄桃色の花です。
確かはずれの丘にはその花が群生していたはずでした。
『あれはすぐに子供が摘みに来ちまうからな。見に行くなら今だ、案内してやるよ。』
『わあ…。』
『あれ見たら落ち込んでたのも吹っ飛ぶぜ、きっと!』
行くだろ?案内してやるよ。
そういってクロト君はきわめて猫らしくにんまりと笑って見せました。
正直、行きたいです。
アミラの花の香りは私も大好きです。
ふんわりと甘くて、蜂蜜とミルクを混ぜたようなかすかな香りがします。
アミラの花畑です、きっと飛びっきりすてきだとは思います。
でも。
『すごく行きたいんですが…やめておきます。』
『はあ?なんでだよ、体調でも悪いのか?』
『いえ、そう言うわけではないんですが…。』
“いいか、外は危険だから勝手に出歩いたりするなよ。”
“それと、俺が居ない間はこの家を頼むな”
『頼まれてるんです。』
『?』
『マスターから、この家をよろしくって頼まれてるんです。だからいけません。誘ってもらえたの、ものすごく嬉しいんですが…。』
約束、しましたから。
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