ある猫の接待

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「…突然何の話だ。本気か?」 「俺も困ってるんだよ。俺の上司の一人娘が君に憧れてるらしくてね?君に掛け合えって圧力がきつくてさ。短期間、いや七日でいいんだ。」 「断る。」 ラスクさんの憔悴の理由はそこにありましたか。 上下関係って大切ですよね。 大切だから重いんですよね、分かりますよ猫にはないですが。 きっぱりと言い切ったマスターにラスクさんはなおも食い下がります 「もちろんただでとは言わない。例のもの、君が何に使うのか分からないけれど…どうにかしてもいいよ。」 「…何?」 「時間はかかるだろうけど、どうにかめどは立ったからね。君がこの話に乗ってくれるって言うなら俺も努力は惜しまない。」 例のものって何でしょう。 「俺はストレスから解放されてすっきり、君は七日感を耐えればずっとほしがってたものが手には入る。…悪い条件じゃないよね?」 「確実なんだろうな。」 「もちろん。俺は研究結果に関しては嘘を付かないよ。」 「…分かった。」 マスターは私の方をちらりとみると重いため息をはき、そしてゆっくりと頷いた。 とたんにさっきまで重苦しかったラスクさんの表情がぱっ、と明るくなる。 「助かった…!ありがとうクロム!」 「ただし七日間だけだ。以降俺の弟子を名乗ることも禁止だからな。」 「わかった、言い含めておくよ。」 マスター、お弟子さんを取るんですね。 どんな方がいらっしゃるんでしょう。 できればあのお姉さんみたいな人じゃなきゃ良いんですが。 ラスクさんはそうと決まれば善は急げ!と私に投げキッスを一つ残して(大変申し訳ないのですが避けさせていただきました)去っていってしまいました。 玄関の方で何かがこける音がしたので、きっと自分のズボンの裾でもふんずけたんでしょうね。 おっちょこちょいな人です。 ラスクさんが立ち去ったのを確認すると、マスターは私を抱き上げると額と額をくっつけるようにして瞳をのぞき込んできました。 こういう時のマスターの目は何を考えているのかあんまり映してはくれません。 私は黙ってみているばかりです。 「…時間なんて止まってしまえ。」 マスターマスター、なんだかラスクさんの空気が移ってますよ。
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