~工藤 潤一の場合~

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「ただいまぁ」  勝手口から右を見れば、妻と次男が配膳をしている。 「おかえり、おとしゃん。そんでお疲れ様。晩ごはんのお味噌汁はどれくらいつごうか?」  家で妻が俺を呼ぶときは決まって『おとしゃん』だ。つくづく思うが、ウチは変わった家庭だ。 「自分でつぐからいいわ。そういえば、おかぁちんは黒酢飲んだ?」  そうだ、俺が妻を呼ぶときは『おかぁちん』だ。本当に変わった家庭だ。  そんな事を考えながら俺は自分の味噌汁を取り分け、黒酢を水道水で割って飲んだ。  そのうちに妻と息子たちはそれぞれの席に就き、俺の合図を待つ。俺も若干急いで冷蔵庫から納豆を取り出して席に就く。  さぁ夕飯だ、俺の出番だ。 「それじゃあせーの、」 『いただきます』  家族の声が一つになって、部屋の空気に混じる。  家で食べる夕食は、これがないと始まらない。  今日の夕飯は、スーパーで買ったチキンカツとほうれん草のおひたし、そしてさつま芋入りの味噌汁だ。  チキンカツの皿には付け合わせの野菜の千切りも控え、彩りも良い。またほうれん草は少しだが小皿に盛られ、鰹節がその爽快感を引き立てる。  味噌汁の椀には、湯気が立ち上る出汁からいちょう型のさつま芋や人参、薄く切ったゴボウが顔を覗かせ、味噌のあの香りが鼻孔をくすぐる。
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