始まりの始まり

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 陽菜ちゃんは農業短期大学を卒業後、新宿にある《Una flor especial》と言う花屋さんに勤めていると言った。 だから私もその近くの花屋さんに的をおいて就活したんだ。 でもなかなか決まらないから、私の人となりを知人の花屋さんに話してくれたのだ。 今日は其処へ二人で行って、内定を貰うはずだったんだ。  陽菜ちゃんは結婚したいと思い続けていた人を亡くしていた。 事故に巻き込まれたらしいんだ。 あまりに衝撃的でそれ以上聞けなかった。 記念日に贈られるはずだったダイアの指環が胸元で輝いていた。 陽菜ちゃんは悲しみを乗り越え…… ううん、そんなに簡単に言っちゃいけないな。 陽菜ちゃんは必死に耐えて、少しずつ落ち着きを取り戻してきたんだ。 凄い凄い努力だと思ったんだ。 私が憧れている高校時代の後輩も、中学に入る直前に母親を亡くしている。 彼をずっと見つめてきたから陽菜ちゃんの悲しみが解る。 だから私は陽菜ちゃんが好き。健気に頑張る陽菜ちゃんが好き。  彼との出逢いがペンステモンと言う花の咲いている花壇の前で、その時に告られたそうだ。 『あなたに見とれています』 それはペンステモンの花言葉はだったのだ。和名つりがねやなぎ。 英国風ガーデンには欠かせない花だそうだ。 先週は陽菜ちゃんの地元の花の祭典に出掛けた。 その花も出展されていると聞き見てみたいと言ったからだった。 その後で陽菜ちゃんがルームシェアを考えた経緯を詳しく教えてくれたんだ。 でも、それを聞いて笑っちゃった。 『姉ちゃんはドンクサイし、アホみたいにお人好しだから都会で一人暮らししたら絶対に騙されるに決まってる』 って二歳年下の弟さんに言われたそうだ。 アパートか? マンションか? 一戸建てか?一人暮らしか? ルームシェアか? ずっとそのことばかり考えていたようだ。 だから私思わず言ってしまったらしいのだ。 『一緒にルームシェアしない?』 って―― 本当のこと言うと私は住み込みで働ける花屋さんに就職しようとして母に相談していたんだ。 だから今日も、もしかしたらそうかと思っているのかも知れない。  あれから毎年あの場所で……私達は更に交流を深めていた。 私は埼玉の実家を出て働くことにしていた。 だから陽菜ちゃんのルームシェアの提案が嬉しくて仕方なかったのだ。
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