34人が本棚に入れています
本棚に追加
私に与えられた時間は僅かだ。
決められるはずなどないけど、誰と同室になりたいのか言わなければならないのだ。
でもその間にご飯を作り、後片付けをしてお風呂を焚かなければならない。
今まで狭いアパートの風呂がまはガスで、種火を付けてから着火しないといけなかった。
この家のバスルームがそんなのではないことは解るけど、それがどんな物なのかさえ想像すら出来ない私だった。
(バスタブを磨く何かあるのかな? それとも全自動だったりして……)
確か二十時間風呂、なんてのもあったと記憶している。
風呂のお湯を巡回して、キレイにするタイプだ。
私は忙しくなると思いながらも、下らないことばかり考えていたのだった。
それでも私は、この家に置いてもらうために精一杯頑張ろうと決めていた。
(さあ、キッチンへ向かうぞ)
私はやたらと力んでいた。
でも、張り切ったのも束の間。
引っ越し蕎麦の出前が届けられた。
「引っ越しと言えばこれだろう。気を利かせて頼んでやっておいたよ」
大君が得意そうに言った。
「流石気配り上手。松宮高校のムードメーカーだけのことある」
私は料理する時間を取られなかったことを感謝していた。
だってきっと、私の料理なんて食べられたもんじゃないよ。
私はそれを自覚していた。
だからボロが出ないように、庭の管理に逃げたのだった。
でも、此処に置いてもらう以上料理はならなくちゃいけないと思っていた。
(ねえ、直樹君。何が好きなの? 直樹君の好きなものなら私何でも頑張っちゃうよ)
私は直樹君の顔を見つめた。
「そこ、イチャイチャしない」
秀樹君の鋭い突っ込みが入った。
「そんな言い方止めてくれよ兄貴。これから風呂に入って寝るって前に」
「お、ルームシェア宣言か?」
秀樹君の指摘に直樹君は固まった。
「あっ、そうだ。お風呂ふったてておきます」
私は動揺を隠そうとして慌ててバスルームへ向かった。
お風呂に行って驚いた。
だってボイラーが外にあるなんて見たこともなかったのだから。
湯船を洗ってスイッチオン。
それだけで終わる。
食事の後、一番先に入れてもらった。
一坪もないような狭い自分の家の浴槽を思い出した。
「陽菜ちゃんごめんね」
私は今日の出来事を思い出して、出会えなかった友人に謝っていた。
最初のコメントを投稿しよう!