♯1 OKAYAMA 300km

2/24
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
04/10 06:02 ■「宿屋 時の鐘」 ぱらつく雨。 静かな朝。 しとしとした雨の当たる音が独特の緊張感を醸し出す。 「空ちゃん、空ちゃん!」 ギシギシと、木の階段を軋ませて二階からヒサ子お婆さんが降りてくる。 小さな食堂で食器を片付けていた私を見つけ、軽やかな足取りで私の目の前に来る。 「お客様のお見送りじゃ、支度なさい」 エプロンを外し、エスパドリーユを靴箱から取り出して履き、表に出る。 宿屋の前のちょっとした敷地は砂利の駐車スペースになっている。 表には既にトメコお婆さんもやって来ていて、これで従業員全員が揃ったことになる。 二台の白いワンボックスカーが宿屋を出ていく。 いずれの車も定員一杯だ。 その後ろからブルーのスポーツタイプの車が続く。 WRX STI 威圧的なサウンドを発している車は見送る私たちの目の前で止まった。 「ほな、サンキューな!」 助手席の色黒のおじさんが、開けた窓から気前良さげな笑顔をみせた。 重低音を轟かせながらスポーツカーが出発する。 一瞬、運転席の人の顔が見えた。 若い。 大学生くらいだろうか? 羽織っていたジャンパーには「Subaru Racing」の刺繍。 星6つが描かれたエンブレムを輝かせながら、朝陽が昇り始めた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!