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「ただいまー」
ギルドでの依頼を終えてミラとライオと別れ、自分の部屋へと戻った。
獣耳を隠していたフードを外し身体を屈め、ブーツの紐を緩めながら若干の疲れに一息つく。
サイスのものだからかな、少し匂いが残ってる……気が、する。……いや、別になんでもないけども、なんともないけども!
一人葛藤しているとそこで中の妙な静けさに違和感をもつ。
おかしいな……いつもなら出迎えがあると思うんだけど。
「おーい、ユリスー?サイスー、帰ったよー」
応答がない。
ここでやっと焦り始めた私。
「サイス……サイス?」
伺うようにそろりそろりと忍び足で廊下を歩き、リビングのドアの前まで行き、ドアノブに手を掛けた。
「……えっ?サイス!?ユリス!?」
中の惨状は異様だった。ガラス窓は盛大に割られ、辺りにはガラス片が飛び散り、カーテンは割られていた窓から抜けてくる風で靡いていた。
テーブルの上には飲み掛けのコーヒー。
頭が真っ白になった。
サイス……!サイスは!?
寝室、トイレ、風呂場と全ての部屋を駆け回る。
いや、駆けずり回ったといったほうが、適切だったかもしれない。それだけ私は混乱していた。
でも誰も居ない。居てくれなかった。
そんな……まさか、誘拐?ううん、あれだけ強いサイスに限ってそんな、そんなこと……でも、もしかしたらもう………
完全に誰も居ないことがわかると力が抜けて廊下の床にへたりこんでしまった。
独り、マイナスの方向に思考が落ちていく。
「サイス……サイス……っ」
気がつけばサイスの名前ばかり呼んでいた。涙まで流れていた。情けない、のうのうとギルドで楽しんでいた時に襲われたんだと思うと情けなかった。
荒らされた部屋でただ独り、情けなかった。
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