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「緊張せずに落ち着いて、まずはお茶でも飲まれたほうがいいでありましょう」
「すまないがそんな気分じゃない」
そうでありますか、と言いつつもちゃっかり二人分の紅茶を用意するよう側にいた執事に告げる妹。
俺はいらん、と言ったんだが伝わらなかったのだろうか。
停止した馬車から妹に連れられ、荘厳な門をくぐった俺は警衛手三名ほどが傍らに構える客間へと通された。
微動だにしない男たちに少しだけ目をやりながら備えてあった椅子へ腰掛ける。
ここまでの相手の行動でかなり目論見が見えてきた。
狙いは間違いなく勇者だろう、それもただ連れ去るだけが目的じゃない。勇者の力を見て脅威となり得るのかどうか、そしてあわよくば自身の戦力へ取り込む、といったところか。
そして使えない人材だと判断したならば容赦なく切り捨てるだろう、とも。
すぐにでも脱出することも可能だがこっちには人質がいる。またしても俺と分断された。
ヒアデルは実戦経験もある優れた魔導師だ。あまり過剰な心配は無用だろう。それにああ見えてユリスはいざという時は強情さをみせる。二人が一緒なら大丈夫だ。
それより気がかりなのはユウキだ。
無茶なことをしでかしそうで怖い。もしユリスと俺が攫われていると知れば単騎乗り込んでくるなんてこと、ないよな?……あり得るから余計怖い。
取り敢えずは正面に座る妹へと問いを投げつける。
「二人を何処へやった、これから俺をどうするつもりだ」
「どう、というのは貴方の今後の身の振り方で決まるのであります。後のお二人も」
やはり利口なやつだ。俺が気にかけていたことを盾に脅してくるなんてな。
しかしそうなればこちらは迂闊に動けなくなってきた。
一人の時は楽だった、そんな考えがふと頭に、よぎるがそれでは駄目だ。そうなると何故いままでユウキと一緒に行動していたのか、それが分からなくなる。
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