5240人が本棚に入れています
本棚に追加
静寂に包まれた室内にドアを四回ノックする音が響く。
「失礼致します、紅茶をお持ち致しました」
先ほど妹に言い渡された執事が戻ってきたようだ。が、交替したのだろうか、声が女のものだった。
「入ってもいいでありますよ」
許可が下りたことで失礼致します、と恭しく礼をして入ってくる。そんなことなど興味のない俺は目の端に少し映る程度にその執事を確認した。
「失礼致します、お嬢様」
妹の前に食器が立てる音もなく目の前に置かれていくカップ。
「失礼致します、勇者様」
「すまない、俺は遠慮す……る」
断りを入れようとして初めて側に来た女執事を視界に捉えた俺は思わず自分の目を疑った。
絶対に見れないような柔和な笑みを浮かべ、普段そのままにしている髪も少しアップにして纏めて留めた燕尾服に身を包んだまごう事なきユウキの姿だった。
ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
「貴女……見たこと無い顔でありますね、女性の執事は初めてお目にしたと思うのでありますが」
「あ、そうな……その通りで御座いますお嬢様。新しくこちらで働かせて頂くこととなったユウと申します。以後よろしくお願い致します」
俺の動揺などどこ吹く風にユウキは給仕を進めながら妹と会話を進める。
「見たところそこまで私と歳は変わらないとお見受けしましたが」
「あははーっ、じゃない……実は家が没落してしまい働き手が居ない状態で急遽こちらで」
「そう、苦労しているのでありますね。貴女、中々淹れ方がお上手でありますね。私など戦闘訓練や武術しかしてこなかったので是非とも見習いたいものであります」
「そうですか!?えへっ、そんなご謙遜なさらず!こちらの私お手製のパンケーキもご一緒にどうぞ!」
「ありがとうであります、ん……っ美味しい。料理まで完璧だなんて、負けたのでありますね」
「料理は厨房に立っている時間がものを言うんです、お嬢様ならばすぐお上手になりますよ!」
「ふふっ、今度挑戦してみるのであります」
何故か会話が弾む二人を余所に俺は心臓の鼓動が早まっていた。
マズイ、非常に不味い!まだそこまで時間が経っていない中でまさかこれだけの行動力があったとは思いもしなかった!慣れない敬語なんて使っているからなんかもう既にボロが出始めている!
最初のコメントを投稿しよう!