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俺が一人平静を保てずにいるといままでユウキと会話を弾ませていた妹から声が掛けられた。
「先ほどからどうされたでありますか?顔に生気がないでありますが」
「いや!気にするな、少し緊張しているだけだから」
動揺を隠すように当たり障りのないことを言うと妹は眉根を寄せて、
「困るであります」
と小さく不満を漏らした。
「あ、ああ。すまん?」
「貴方は大切な客人であります。体調が優れない場合はすぐにお申し付けくださるとありがたいであります。至急医療班に連絡致しますゆえ」
「そうか……ありがとう」
「……いえ、私個人の意志ではありませんので」
「それでもだ、感謝するよ」
素直に礼を言うと妹は神妙な面持ちのままに会話を終わらせた。そこから会話も無くなりしんとした空気が続く。
気まずい静寂が流れるなか、目の前に置かれたティーカップを手に取り、口に端を付ける。
しかし手錠を着けられたままだと飲みものを飲むだけでも面倒に感じる。
静か?と疑問符を頭によぎり、そういえばとチラリとユウキを見やった。
見なければよかった。
微笑を顔に貼り付けて静かに佇む姿は新鮮でいかにもな風情があるがその目は黒い感情を隠すことなく如実に物語っていた。目の前の女(妹だが)に色目でも使ったりすればその時は殺る、と。
目の奥に光がない……
理由は定かではないがどうやらユウキは妹に対しての態度が少しぎこちないことを鋭敏に察知してあらぬ誤解を俺へと向けているようだ。
なんだろうか、この冷や汗は。震えが止まらないんだが。手に持ったティーカップが受け皿と甲高い不規則なリズムを奏でてるんだが。
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