恩師

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平行線を辿った球団との話し合いの後、新堂のオフは例年通り慌ただしかった。 野球教室や施設訪問、テレビやイベントへの出演など、行く先々で去就について質問攻めに遭った。 自身を含めて多くの人々が振り回されているのを肌で感じ、フリーエージェント制度など無くなればいい……とさえ、思い始めていた。 そんな中、スケジュールの合間を縫って、新堂は高校時代の母校を訪れる。 ここでの3年間が新堂龍哉の人格形成に大きく影響を与えた原点。 学校法人 神崎学園 私立 清陵館高等学校 あの頃と変わらないブロンズ製の校名プレートが出迎える校門を潜ると、早速、後輩たちの活気に満ちた掛け声が耳に飛び込んでくる。 野球グラウンドに向かうと、新堂が以前寄贈した打撃マシンを使ってフリー打撃の真っ最中。 「何だ、珍しい人が体験入部がてら見学か?」 新堂の背後から、冗談混じりに声をかけてきたのは、母校の監督を20年以上務める恩師の竹中だ。 威厳のある二重顎に丸く出たお腹、年中半袖のアンダーシャツから出た真っ黒く太い腕と銀時計。 どっしりとした、イカつい風貌の次期清陵館学校長最有力候補。 「お久しぶりです。」 新堂は大学進学と同時に故郷を離れたが、プロ入りして地元に帰って来てからはシーズンオフにこのグラウンドを使わせてもらっている。 ただ今日ここを訪れたのは身体を動かす目的ではなく、恩師に会うためだった。
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