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屈強そうな兵士は体中の痛みとともに目を覚ました。
全身打撲と擦り傷、左腕は骨折しているようだったが四肢はかろうじて残っていた。
痛む左腕を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
が、すぐに膝から崩れ落ちた。
目の前には仲間だったかけらが散らばっていた。
「・・う・・・くっ・・!」
まともに声が出なかった。
全身の痛みによるものか、仲間達の無惨な姿を見たせいなのか、あるいは両方なのかもしれない。
天使は依然として侵攻している。
(食い止めなければ・・・。)
彼等が天使の侵攻を止められなければその先には自国の民が、国そのものが死滅させられる。
敗北は自国の死と同義である。
周りを見渡し生存者を確認する。
「まだ動けるものはいるか!?」
数名の兵士達が駆け寄って来る。
「ダン隊長!無事ですか?」
若い兵士がダンの肩を支える。
「あぁ、何とかまだ戦える。」
そう言うが既に疲労困憊、まともに戦える状況では無かった。
しかしここで自分がいなくなれば部下達の士気に差し支える事は簡単に想像がついた。
「生存者を探し、重傷のものは本部に搬送、残りのものはアレを何とか食い止めるぞ!」
ダンは死を覚悟していた。
部下達もそれを察していた。
もはや選択肢は戦うか死か、二つに一つだった。
勝ち目などはもう無いのかもしれない。
それでも戦うのは死んでいった仲間達のため、自国の民のため。
重傷の兵士達を本部に送る仲間達を見送り、残りの兵力を確認する。
二人。
自分を含めても三人だった。
まだ若い兵士二人を引き連れ向かうは死の道。
二人の兵の顔を見る。
男の兵士はまだ18歳の赤髪のまだ幼さの残る青年だった。
もう一方の兵士は16歳の薄い栗色の髪女の子だった。
二人とも実力は兵の中でも高かったが相手が相手なのだ。
「・・・残ったのは俺とシリウスとフィーネか。」
人数の問題ではないが、天使と戦うには無謀だった。
「生きて・・・生きて帰ろう。」
ダンは自分の発した言葉に驚いた。
部下二人も一瞬驚いたような顔をしたが、笑ってみせた。
(俺はまだ希望を捨てていなかったのか・・・。)
ダンはフッと笑うと剣を手に取り天使を睨みつけた。
ダンは上着を投げ捨て全身に魔力を集中させる。
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