第一章「神」と「ニンゲン」

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―一方、ニンゲンの世界では―  とある川辺で、中年の女性のしわがれた声で聞こえました。まるで、娘が悪魔に攫われたような声でした。 「ああっ……戻ってきてリン……!どうしてなの……どうして!?」 女性の目の前には、勢いが激しい川が、その遠くには小さな少女が流れに逆らいきれずにのまれているのが見えます。  辺りに誰もいないのか、女性の悲痛な叫びは周囲を覆う薄暗い森の中に消えてしまいます。 そんな光景を感情が欠落したような目で『善神』が見つめます。 彼女は、森の中の、ひときわ高くそびえたつ樹のさらに上空にいました。 「ニンゲンはどうしてこんなに脆いのかしら」 彼女はそうつぶやきながら、遥か遠くでもがき苦しむ少女に向かって手をかざします。そして、彼女はかすかに強い声で言います。 「あのニンゲンを浮かせなさい」 すると、その通りになりました。
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