鏡に写る影

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「咲子、どこにいるの。いい加減降りてきなさい。」 お母さんが呼んでいる。私は暗い部屋の中に居た。生暖かい空気が漂う物置になっている部屋に。絶対降りて行くもんか。今日、私はお父さんと喧嘩した。今年はもう受験生だっていうのに何ひとつ私の学校のことを知らない。この間なんて学年すら知らなかった。そんなお父さんが喧嘩する前から嫌いだった。気がつくとケータイがなっていた。誰からだろうと見てみると「非通知」の文字が青白い画面に浮かび上がっていた。最近迷惑メールや悪戯電話が多い。本当にいやになる。だけどそんな気持ちを唯一癒してくれるものがあった。それがこの物置部屋に何年も昔からある鏡だ。赤い薔薇をモチーフにした綺麗な縁が一際目を引くのである。いつも、何故飾らないのか疑問に思っていた。今日も勿論それが目当てでここへ来た。しかしいつもとなんか違う。よく見ると鏡はいつもと違い、ひとつも輝いていないのだ。更に鏡に写る自分の顔には黒いモヤのような影がかかっている。私はいつの間にか、その影に吸い込まれるかのように寝てしまっていた。
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