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彼は、楠 ジョウ(くすのき じょう)は、その屋敷を見て天を仰ぎ、そして深く息を吐く。
ついにここまで、来てしまった。
左右に続く塀。
目の前の門は木材であったが、かなり厚く重そうだ。
開かれた門の先には、とても都会とは思えないような広大な敷地に庭があり、池があり、奥の方に純和風な建物があった。
ジョウはその屋敷を見て、ゆっくりと目を細める。
眉間にシワが寄りそうだったが、それはかろうじて止めた。
いろいろな気持ちが交差して、不快だ。
けれど。
不意にジョウを迎えに足を運んで下さった1人の老紳士と目が合って、ジョウはとても綺麗な仕草で緩やかに頭を下げる。
白髪混じりの初老の男は、ジョウよりも少し背が低い。
真っ黒な仕立ての良さそうな燕尾服で、その老紳士がこの屋敷の執事であることがわかる。
垂れ目気味なその目尻に刻まれたシワが、優しい印象を与える。
実際、男は笑みを崩す事はなく、始終落ち着いた穏やかなその立ち振舞いは、少しだけジョウの心を安堵させた。
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