2章 : 罰

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本日最後の授業を受けながら、ぼくは休憩時間の事を思い返す。音無涅槃について訊ねると、皆一様に表情を固めて貝のように口を閉ざしてしまう。最初は只のイジメかと思っていたが、ならば本人がいない時に悪口の1つくらい出ても不思議ではない。 もしかしたら、自分は思い違いをしていたのかも知れない。音無涅槃が気に入らないからイジメの対象にしているのではなく、もしかすると…… 皆、彼女を恐れて、避けているのではないか、と。 東雲なつきは『あんな事があったなんて』と言っていた。その瞬間、昼休憩終了がまだ10分近くも残っていたというのに、長谷部から「そろそろ教室に戻ろうぜ」と言い出し、全員解散となってしまったのである。 それだけではない。前の授業が終了して、ぼくがトイレから教室へ戻る際に偶然目撃したのだ。東雲を叱責する長谷部の姿を。彼は柏木の姿に気付くと、いつもと変わらない様子で「おう、柏木。またトイレかよ」と笑顔を見せながら近寄ってきた。本当に、何事もなかったように。 過去に何かがあった事は間違いないだろう。それを全員で隠している事も。ならば方法は1つ、真実を調べる他ない。おかしな事に首を突っ込む事が得策じゃないのは、先の失敗で重々分かっている。だが、何か隠されていると不信感を抱きつつ、これから3年近くもクラスメートと付き合っていく事が出来るだろうか。そもそもぼくには、音無涅槃を存在しないものとして扱い続けていく事が出来そうにない。自分自身も、過去に色々な事があったから―― 生徒が答えてくれないのならば、教師だ。都合の良い事に、放課後は抜き打ちテストの件で教師に呼び出しをくらっている。 話し合えば、きっと解決出来るんだ。ここにいる全員が皇とも音無とも、本当は仲良くしたいはずなんだ。他の生徒が出来ないのであれば、新参者で何も分かっていない自分が、このふざけた『ルール』を無くす……! 黙々と授業内容をノートに書き写しながら、ぼくは静かな闘志を燃やしていた。
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