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「店長、…ちょっといいですか?」 アシスタントの河野が、少し困った顔で俺を呼んだ。 「金子様、申し訳ありません。少し、失礼しますね。」 鏡の中の常連さんが、小さく頷くのを確認し、数歩下がった。 「すみません。 飛び込みのお客様なんですけど、どうしても髪を切って欲しいとおっしゃってて…」 河野が耳元で話す内容を聴きながら、腕時計を見ると閉店の20時まであと5分を切っていた。 「受付時間が過ぎてる事をお伝えして、お断りはしたんですが…」 入社して半年の河野は、若い割には落ち着いた奴だった。 どんなに忙しい状況でもクールに仕事をこなしてきた河野が、こんな風に動揺するのは珍しい。 「…断りきれない理由は?」 「…その、女性のお客様なんですけど、…泣いてるんです。 入って来た時から…」 なぜか顔を赤くして言う超レアな河野の様子に、俺はちょっと和んでしまった。 「いいよ。15分待って貰って。」 受付で金子様の会計を待ちながら、飛び込み客の後姿を横目で伺う。 彼女は椅子には座らず窓の外を見つめていた。 身長はヒールを履いてる状態で170㎝位。 白いシャツから下の黒いスキニージーンズの足は綺麗なラインを描き、モデル並のスタイルの持ち主で有る事は間違い無かった。 …そして、 手入れの行き届いた、艶の有る腰までの長いストレートヘアが俺の気を少し重くさせた。
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