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以前、父の事を聞いた時、小さかったから覚えていないんだと申し訳無さそうに尊は言った。
今になって、父との思い出を語り始めた尊。
かつて抱いていた夢が、父の夢だった事を知ると同時に、尊から放たれた言葉の一つ一つが、俺の心の深い部分に着地した。
…裏切ったんじゃ無い。
…最初から俺を不幸にするために、…近づいたんだ。
「…薫の事は、俺の記憶から、すっかり抜け落ちててさ。
グラウンドでお前を見るまでは、存在すら忘れていたんだよ。
蔵元家でも、薫は最初からいない人間になっていたから、思い出せなかったのも仕方ないんだけどね。
…だからさ、びっくりしたよ。
女の子の指差す先に、いるはずの無い人間が、野球してるんだもん。
封印していた記憶が一気に溢れてさ。
倒れるかと思ったよ。
そしてさ、…解ったんだ。
…俺が本当に憎むべき相手が誰だったのか、…ようやく解ったんだ。」
尊は、灰皿にタバコを押し付けると、前のめりになって俺の顔を覗き込んだ。
「薫は俺に約束したんだ。
『もうすぐママを返すよ。』って。
小さかった俺は、それが、何を意味するのかなんて分からないまま、彼奴の言葉を信じた。
ちゃんと我慢もしたんだ。
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