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着けたばかりのタバコを灰皿に押し付けると、尊は立ち上がった。
「人の物を欲しがり、人を騙し、恩を仇で返せるのは、やっぱり、卑しい血のせいだよね。」
ゆっくりと俺の前に近づくと、尊は俺を見下ろした。
「亜希に本当の事を言わないお前を見て、つくずく思ったよ。
…彼女の気持ちや時間をずっと無駄にしながら平気でいられるのは血なんだよ。
色で人を惑わし、人を騙し、裏切る。
妾女の卑しい血は、お前にも確実に受け継がれてたって事さ。
…その目と一緒にね。」
蔑みを含んだ冷たい視線。
その目は、かつて亜希の家族から向けられた物と同じだった。
「…亜希をどうするつもり?」
俺は、3年前にもした同じ質問を尊に投げかけた。
あの時の尊は、躊躇無く言った。
『勿論、幸せにするよ。
亜希のお腹の中には僕の子供がいるんだからね。』
勝ち誇った顔で『僕の』を強調した尊。
頭の中に、亜希が尊を受け入れた姿が鮮明に浮かび、それをかき消そうと反射的に身体が動き、俺は尊の前から逃げ出した。
そうして、亜希からも逃げ、逃げたままにした結果が、今、3年の月日を経て自分に跳ね返ってきた。
もう、逃げる訳にはいかない。
亜希からも。
…こいつからも。
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